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福岡家庭裁判所 昭和46年(少ハ)1号 決定 1971年5月26日

少年 B・Z(昭二八・二・二三生)

主文

少年を昭和四六年五月二六日から同四七年五月二五日まで中等少年院に戻して収容する。

理由

(非行事実)

九州地方更生保護委員会作成の昭和四六年五月七日付戻し収容申請書の「保護観察の経過及び成績の推移」欄中四項末行の「らしいことが判明」の部分および五項の「右状況のため」以下を削除し、五項に「以上のように、少年は、少年院を仮退院中で保護観察官の厳重な指導監督を受けていたのに拘らずその指示に従わず犯罪者予防更生法三四条二項一、三、四号の法定遵守事項および九州地方更生保護委員会が定めた特別遵守事項を遵守しなかつたものである。」と挿入するほか前記申請書の前掲欄記載事実のとおりであるからこれを引用(編省略)

(処遇の理由)

少年は、昭和四五年七月七日中等少年院を仮退院し自宅に帰つたのであるが、前記認定のように保護観察の成績不良であつて、在宅保護によつては、少年の改善、更生を図り再犯予防の目的を達することが困難であると認められる。現実には昭和四六年三月一六日頃福岡市○○○スナックバー「○」において酔余暴力事件を引起しており後日追送致される予定であるから、再犯予防の目的は既に達せられなかつたのかもしれないが、いずれにしても、少年には、保護観察を真面目にうけようとする意欲がうかがえず、保護観察の実施の困難性が同時に、将来における犯罪の反復累行性への予測を可能ならしめる現状にあると認められる。

思うに、保護観察も少年院収容も少年に対しては保護処分としての共通性を有するのであつて、その違いは、身柄拘束性の強弱にあるに過ぎない。少年院仮退院中の少年に対する法定の保護観察は、身柄拘束性のより柔弱な保護処分への変更を意味するのであり、犯罪者予防更生法四三条の定める少年院への戻し収容は、右の変更が、結果的にみて不当であつたことを確認し再度変更する処分に相当するものということができる。

いい換えれば、戻し収容もまた保護処分の取消変更の範ちゆうに属する家庭裁判所の処分であつて、法は、処分の要件として、「遵守すべき事項を遵守しなかつたとき、又は遵守しない虞があるとき」と規定しているが、要保護性の認定についてこの要件の充足は、いわば最低の条件であり、保護処分の取消変更の見地に立つて考察すれば、収容処分への変更の具体的相当性あるいは妥当性を附加的に、かつ当然に、要求されているものといわなければならない。

それでは保護観察の取消変更は、この場合、どのような理論的要請を有するであろうか。罪を犯す虞れがあることは保護処分の本質的要件ではあるが、それだけでは収容処分の相当性を裏付けるには十分でなく保護処分の継続中は継続の要件にすぎず変更の要件ではありえないから、戻し収容申請事件の審判は、身柄の収容が、少年の改善と更生により積極的に効果あることの予測の判定に向けられねばならない。右の予測は、少年の資質、これまでの経過、非行前歴、環境、家庭の保護能力等を総合判断したうえ、保護観察の困難性のみならず再犯の切迫性を確認することにより根拠付けられるであろう。要するに、戻し収容申請事件において実質上の保護処分の取消変更をなすためには、保護観察の限界を越え収容処遇を妥当ならしめるところの再非行の切迫性ないしは不可避性が身柄拘束を容認せざるを得ない処分の基準となるものと解するのが相当である。

いまこれを本件についてみるのに、少年は、実際には、罪を犯した疑いが濃厚であるだけでなく、再非行の発生を不可避的と判断させる条件を具備することは前記のとおりであるから、少年に対する九州地方更生保護委員会の本件申請は相当であるが、当裁判所は、少年の改善、更生のためには、今後一年間を要するものと認めるので、犯罪者予防更生法三一条三項四三条一項少年審判規則五五条三七条一項を適用して、主文のとおり決定した。

(裁判官 仲江利政)

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